不動産賃貸業・投資の税務相続税申告・相続対策

アパートの贈与

節税対策の1つとして、よく利用される手法にアパートやマンションを子供へ贈与をする手法があります。

賃貸物件から生じる所得を相続人等に変更することにより、個人の所得税等が減額できることと被相続人の財産を増加させたくない場合などに用います。

しかし、賃貸物件の贈与については思わぬ落とし穴があります。

負担付贈与にご注意を


賃貸物件を贈与する場合、「負担付贈与」に注意する必要があります。

負担付贈与とは、贈与する際に単に権利だけを与えるだけではなく、義務も負担させるような贈与を言います。賃貸物件の贈与時に贈与する賃貸物件と紐づいている敷金や借入金もあわせて贈与することが多いため、負担付贈与に該当することになるわけです。

この負担付贈与は、税金計算上とても特殊なものであるためきちんと理解しておくことが重要です。

課税関係

通常の贈与であれば贈与した側には税金はかからず、贈与をうけた側だけに贈与税負担が生じます。しかし、負担付贈与に該当した場合には、贈与した側でも税金が課される場合があります。なぜならば、贈与者に対しては負担付贈与は”贈与”としながらも、税法上は”譲渡”と考えて課税するスタンスをとっているからです。ローン残債がある物件をローン残債付で贈与したならば、贈与した賃貸物件をローン残債相当額で売却したと考えるわけです。

取引時価にご注意を

土地や建物を贈与する際には路線価や固定資産税評価額が基準になります。

しかし、負担付贈与に該当する場合には路線価や固定資産税評価額は利用できず、通常の取引価額により計算する必要があります。

(参考:相続税関係個別通達 平成元年3月29日直評5 直資2-204)

土地及び土地の上に存する権利(以下「土地等」という。)並びに家屋及びその付属設備又は構築物(以下「家屋等」という。)のうち、負担付贈与又は個人間の対価を伴う取引により取得したものの価額は、当該取得時における通常の取引価額に相当する金額によって評価する。ただし、贈与者又は譲渡者が取得又は新築した当該土地等又は当該家屋等に係る取得価額が当該課税時期における通常の取引価額に相当すると認められる場合には、当該取得価額に相当する金額によって評価することができる。

事例検討


言葉だけではイメージがつきにくいので事例を使い説明したいと思います。

事例1

父から賃貸物件を子供に贈与します。

その際にローン及び預かり敷金も同時に子が負担します。

賃貸物件取引時価 2000万円 賃貸物件相続税評価額 1500万

賃貸物件取得価格 800万円 (15年前に取得)

ローン残高900万円 預かり敷金100万円

(結論)

この場合には負担付贈与になります。

父 ➡ ローン残高と預かり敷金の合計額1000万円で物件を売ったことになります。

子 ➡ 取引時価-負担額(ローン+敷金)=1000万円 が贈与税の対象となります。

つまり

父 1000万円-800万円=200万円

  200万円*20.315%≒40万円(譲渡所得税)

子 (2000万円-(900万円+100万円)=1000万円

  (1000万円-110万円(基礎控除))*贈与税率-税額控除=177万円

注)贈与税率については特定税率を適用。

事例2

父から賃貸物件を子供に贈与します。

その際に預かり敷金も同時に子が負担します。

賃貸物件取引時価1500万円 賃貸物件相続税評価額 1000万

賃貸物件取得価格 500万円 (15年前に取得)

預かり敷金100万円

(結論)

この場合にはローンがなくても預かり敷金が法律上、当然に賃貸物件に付随して移動することになるため負担付贈与に該当します。

父 ➡ 預かり敷金の額100万円で物件を売ったことになります。

子 ➡ 取引時価-負担額(敷金)=1400万円 が贈与税の対象となります。

つまり

父 100万円-500万円=△400万円 ➡ 税負担なし

注)個人間譲渡による著しく低い価額での譲渡に該当するため、譲渡損はなかったものとみなされます。

子 (1500万円-100万円=1400万円

  (1400万円-110万円(基礎控除))*贈与税率-税額控除=326万円

注)贈与税率については特定税率を適用。

負担付贈与の回避


負担付贈与を回避する方法

負担付贈与に該当するような場合には、事例でも確認してきた通り、税金の取り扱いが複雑になりますし、税負担が重くなります。

そのため、当事務所で物件移転を行う際には借入返済が終了している物件を選択し、贈与を行っています。ただし、事例2で見てきたとおり、預かり敷金は賃貸物件に紐づき移動してしまうため、預かり敷金に対応する現預金も併せて贈与を行うことにより負担付贈与に該当しないように贈与を行います。

(参考:国税庁照会事例 賃貸アパートの贈与に係る負担付贈与通達の適用関係一部抜粋)

【照会要旨】

父親は、長男に対し賃貸アパート(建物)の贈与をしたが、本件贈与に当たって、賃貸人から預かった敷金に相当する現金200万円の贈与も同時に行っている。この場合、負担付贈与通達(平成元年3月29日付直評5外)の適用を受けることになりますか。

【回答要旨】

旧所有者(父親)が賃貸人に対して敷金返還義務を負っている状態で、新所有者(長男)に対し賃貸アパートを贈与した場合には、法形式上は、負担付贈与に該当しますが、当該敷金返還義務に相当する現金の贈与を同時に行っている場合には、一般的に当該敷金返還請求債務を承継させる意図が贈与者・受贈者間においてなく、実質的な負担はないと認定することができます。したがって、照会の場合については、実質的な負担付贈与に当たらないと解するのが相当ですから、負担付贈与通達の適用はありません。

敷金相当額もあわせて贈与する場合(事例3)

事例2をベースに考えてみたいと思います。

父から賃貸物件を子供に贈与します。

その際に預かり敷金も同時に子が負担します。

また、預かり敷金相当額も併せて父から子供へ現預金で贈与します。

賃貸物件取引時価1500万円 賃貸物件相続税評価額 1000万

賃貸物件取得価格 500万円 (15年前に取得)

預かり敷金100万円 子供に贈与する金額 100万円

預かり敷金相当額もあわせて贈与することにより、子供に実質的な負担額は生じません。

そのため、負担付贈与には該当せず、通常の贈与と該当することになります。

(結論)

父 ➡ 単なる贈与であるため課税関係は生じない。

子 ➡ 通常の贈与になるため取引時価ではなく、相続税評価額により贈与税計算

 (1000万円-110万円)*贈与税率-税額控除=177万円

注)贈与税率については特定税率を適用。

事例2と比較すると子供に100万円余分に贈与したにも関わらず

贈与税は149万円軽減したことになります。

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