平成27年1月から相続税の基礎控除が4割圧縮された影響により、国税庁発表のデータによれば相続税申告の件数は約2倍に増えました。従来、相続税申告といえば、限られたお金持ちに限定されていたものでしたが、近年では、通常のサラリーマン家庭でも無関係なものではなくなってきております。
相続税申告を自分で計算しても問題がないと思われる方
相続税申告を税理士へ依頼すると最低でも30万円程度はかかります。
そのため、近年では所得税の確定申告のノリで自分でやってみようと考える方も多いようです。
しかし、相続税申告書と所得税申告書とではボリュームが圧倒的に違うため、税務署は個々の質問事項に対しては相談にのってくれますが、申告書の作成については書き方の概略程度のアドバイスに留めており、手取り足取り教えてくれるわけではありません。また、所得税の確定申告のように国税庁のホームページで申告書作成ソフトがアップされていないこともあり、自分で手書きで行わなければならないこともハードルを上がってしまっている一因です。
ハードルの高さゆえ、弊所にも、途中まで自分で頑張ったのだが挫折した。とおっしゃり申告期限ギリギリになり来所される方が多くいらっしゃいます。
このような場合には余計な費用が発生したり、期限内申告の利益を享受出来なかったりするため、せっかく自分で途中までやったのに逆に不利益を被ることがあります。
そのため、自分で相続税申告書を作成しようと考えている方は、まず初めにやり切れる内容であるか?中心になり事務作業を行う方の時間が確保できるかのか?を冷静に検討し、着手する必要があります。私は以下のような条件を満たす方であれば、自力で相続税申告を行ってもやり切れるのではないかと考えます。
- 最低限の相続税に知識を持ち合わせている。(基礎控除・非課税範囲・計算の仕組みなど)
- 相続人の人数が1人又は2人で相続争いの心配が全くないこと。
- 相続財産が自宅・預金のみ。
- 土地の形が整形地(真四角)で補正率等の適用がない。
- 被相続人が生前に相続人等に贈与などを一切行っていない。
- 相続税が僅少又はかからない。
- 特例を使わない。
- 申告を取りまとめる方に時間のゆとり(特に平日)がある。
以下では、上記の要件を満たした方が相続税申告作業を自分でどのように進めていけばよいかをご紹介したいと思います。
相続税申告を自力でやるための10のステップ
ステップ1 スケジューリング
相続税申告は申告期限が相続発生日から10か月であることからもわかりますが、非常に時間がかかります。比較的手間があまりかからない相続でも2~3か月は時間を要します。
そのため、申告期限までの時間とご自身が申告にどれぐらいの時間をさけるかを十分検討する必要があります。
詳しくは⇒相続税申告までのスケジュール
ステップ2 準確定申告を行う。
相続税申告は、相続発生日から10か月以内ですが、その前に重要な期限として相続放棄と準確定申告があります。相続放棄は3か月。準確定申告は4か月です。
準確定申告で発生した追加納税額は、債務として積極財産から控除がしますし、還付の場合には積極財産に加算されることになるため、準確定申告はたとえ還付申告であっても相続税申告書作成前に必ず行っておく必要があります。
詳しくは⇒準確定申告に関する取り扱い
ステップ3 相続税申告が本当に必要か?
そもそも、相続税申告は、基礎控除より財産が少ない場合には不要です。
そのため、相続税申告が必要か否かを検討する必要があります。
不明な場合には以下のような手順で考えてみてください。
①被相続人(亡くなった人)の預金について亡くなった日の残高を確認
②土地については路線価図に照らし、対象地の路線価に地積を乗じた金額を把握
③建物については固定資産税の通知に書いてある価格を把握
④借入や葬式費用を概算で把握
⑤相続人を把握し、基礎控除を計算 (3000万+600万*法定相続人の数)
①+②+③-④ > ⑤ 相続税申告が必要。
詳しくは⇒相続税のあらまし
ステップ4 戸籍や相続情報関係図
戸籍の収集は、相続税の申告有無にかかわらず行う必要があります。収集すべき範囲ですが、被相続人の出生から死亡までを集める必要があります。戸籍法の改正があることに加え、被相続人の戸籍が移動している場合には一つ一つの戸籍を追いかける必要があり、非常に時間がかかります。しかし、名義変更には必ず必要となるものであることに加え、税務署にも原本提出義務があるため、自分で申告を行うためには避けては通れない作業です。
近年では、法定相続情報証明制度が制定されました。申告後の手続きをスムーズに進めるためにも、法定相続情報一覧図の作成は是非行っておきたいところです。
詳しくは⇒戸籍の基本、法定相続情報証明制度
ステップ5 預金残と現金残を把握しよう。
相続税申告の際は、被相続人の亡くなった日における財産がいくらであったかをしっかり把握する必要があります。そのため、被相続人の亡くなった日における預金残高について各金融機関に依頼し残高証明書を取り寄せます。
よく、通帳のコピーではダメなのか?と聞かれることがあるのですが、残高証明書を取ることで把握していた口座以外のものが出てくるケースもあるため、残高証明書をとることをお勧めします。
また、被相続人が亡くなる前に預金を引き出す方がいますが、被相続人が亡くなった日においていくら残っていたかを、税務調査の際には必ず確認します。そのため、直前引き出し預金は明確にし、相続財産として計上する必要があります。(あげない場合には隠蔽行為に捉えられる可能性があり、注意が必要です。)また、税務調査では過去の入出金について職権により銀行調査を行いますので調査に備え、大きな入出金についてはしっかり確認しておく必要があります。
以下のような場合には税務調査で問題になることがあります。
- 配偶者がずっと専業主婦であったにも関わらず預金が多額
- 相続人や他の親族の年齢や収入に比してその相続人、他の親族の預金が多額
- 相続発生日前に多額の出金を行っているにも関わらず、手許現金が計上されていない。
税務署は被相続人本人以外の口座も併せて調査しますので注意が必要です。
ステップ6 土地建物の評価
(1)自宅の土地評価(路線価地域)
自宅が路線価地域にある場合には路線価により計算されます。
国税庁のホームページより被相続人が亡くなった日の属する年の路線価図により、評価対象地に付されている路線価を確認し、路線価に地積を乗じ評価額を計算します。(土地の形によっては補正率を乗じます)
以下は土地評価に最低限必要な資料
- 評価対象地の測量図
- 測量図がなければ法務局で公図を取得
- 路線価図(国税庁HP)
- 補正率表(国税庁HP)
場合によっては役所にいき、道路状況などを調査する必要もあります。
なお、小規模宅地の特例等を利用する場合には、集めるべき必要書類が増える場合もあります。
(2)自宅の土地評価(倍率地域)
自宅の場所について国税庁発表の路線価図が存在しない場合には倍率地域に該当します。
その場合には固定資産税の納税通知書に表記されている固定資産税評価額を基準に、国税庁発表の評価倍率表を利用します。評価倍率表には場所、用途により固定資産税評価額に乗じる倍率が記載されています。
(3)建物の評価
建物については、毎年5月ごろに役所より送らてくる固定資産税の納税通知書に建物評価額の記載がありますので、そこに記載れている固定資産税評価額を用います。
ステップ7 債務葬式費用の把握
被相続人に関する債務を把握する必要があります。
被相続人に関する債務で亡くなった日以降に支払ったものの領収書を集めます。
具体的には医療費、住民税、国民健康保険、固定資産税、など。
葬式費用については、葬式に関係するもののみが控除の対象となります。
49日や香典返しなどは一般的には葬式費用には含まれませんので注意が必要です。
ステップ8 財産目録を作成し、遺産分割協議書を作成しよう。
上記ステップ1~6により、財産の把握が済んでいるはずですので、その財産価格を参考に財産目録を作成し、どのように分割するかを検討しましょう。
この際、二次相続も考え、遺産分割を考える必要があります。分割方法により、一次相続と二次相続を合わせた負担税額が大きく異なることがあるため注意が必要です。
そして、分割内容が確定したら、分割協議書を作成しましょう。
ステップ9 相続税申告書の作成を行う。
相続税申告書作成の手引きを参考に申告書を作成します。
ピンポイントでの質問であれば税務署も対応してくれるので、十分活用しましょう。
平成29年国税庁発表 相続税申告の手引き
⇒http://www.nta.go.jp/shiraberu/ippanjoho/pamph/sozoku/shikata-sozoku2017/index.htm
ステップ10 申告書の提出と納税 その他の作業
ステップ9で作成した申告書作成結果から納税金額が算出されますので、各相続人に対応する相続税について納付書を作成(納付書は被相続人の最後の住所を管轄している税務署のものを準備する必要があります)し、金融機関の窓口又は税務署の徴収課で納税を行います。
また、申告書は、被相続人の最後の住所を管轄している税務署へ提出します。
申告書を税務署提出する際には申告書作成のための根拠資料を添付したうえで後日に備え、控えも一緒に提出します。
また、分割協議書に基づいた遺産の分割や不動産の登記を行います。相続税申告に使用した印鑑証明書や分割協議書、戸籍謄本などが必要となります。
まとめ
- 相続税申告は時間と手間がかかる。
- 相続税申告は内容によっては税理士に依頼しなくても自分で申告することは可能。
- 相続税申告に限っては手取り足取り税務署は教えてくれない。