個人事業者が死亡し、その者が営んでいた事業をだれが引き継ぐか争いがあるような場合、事業について未分割状態となりますが、この期間の所得はだれのものになるかご存知ですか?
このような場合には、所得税法第12条の実質所得者課税の原則に基づき、だれが事業主に該当するのか?により推定し申告を行うこととなります。
未分割時の収入帰属
未分割時の所得帰属については大きく被相続人が所有していた資産から生じるものと被相続人が営んでいた事業から生じるものに大別されます。前者は、賃貸アパートや賃貸マンションなどから生じる不動産所得などが代表的なものです。後者は個人事業を行っていたような事業所得が代表的なものです。
個人事業に関連し、相続時に承継が必要なものとしては売掛金や未払金などと事業そのものに大別されます。
前者は単なる債権債務の承継のため、被相続人が保有していた預貯金や借入などと同じ取り扱いです。次に事業そのものについてですが、事業が法人化されているような場合には、株式の承継をだれが行うか?により決着します。しかし、個人事業の場合、事業そのものは屋号や暖簾といった無形のものであり、金銭換価が難しく、話し合いで決着しない場合もあります。このような場合には、実際に事業を行っているものを判定し、収益を帰属させることになります。
事業主は誰か?
実質所得者課税の原則
相続の話から少しそれてしまいますが、所得税軽減のため、事業主を事業者本人から妻や従業員などへ変更したいと相談されることがあります。開業届を出せば、表面上は事業主が変更されたように見えます。
しかし、税務調査があった場合には、実質的な事業主が問われることとなります。
届出を出しているのだから、事業主は変更していると言い張る方もいますが、所得税法では名義人がだれであれ、実質的な事業主に課税をするという実質所得課税の原則という規定が存在します。
更に所得税法基本通達により、事業主がだれであるかを判定する基準も存在します。
これらの基準は未分割の事業についても同様に適用されます。
親族間における事業主の判定
親族間における事業主判定を行う場合、二段階で判定を行います。
まず、その親族は生計を一にしているかどうかです。生計別であれば事業を経営していたものにより判定されます。
次に生計を一にする親族における事業主の判定ですが、経営方針の決定につき支配的影響力を有すると認められる者が事業主に該当することとされています。ただし、生計一親族の場合には、支配的影響力の判定が明らかでない場合も多いため、そのような場合には所得税法基本通達12-5により判定を行うこととなっております。
列挙されている事項としては以下のとおりです。
(所得税法基本通達12-5一部抜粋)
(1)生計を主宰している者が一の店舗における事業を経営し、他の親族が他の店舗における事業に従事している場合又は生計を主宰している者が会社、官公庁等に勤務し、他の親族が事業に従事している場合において、当該他の親族が当該事業の用に供されている資産の所有者又は賃借権者であり、かつ、当該従事する事業の取引名義者(その事業が免許可事業である場合には、取引名義者であるとともに免許可の名義者)である場合 当該他の親族が従事している事業の事業主は、当該他の親族
(2) 生計を主宰している者以外の親族が医師、歯科医師、薬剤師、弁護士、税理士、公認会計士、あん摩マッサージ指圧師等の施術者、映画演劇の俳優その他の自由職業者として、生計を主宰している者とともに事業に従事している場合において、当該親族に係る収支と生計を主宰している者に係る収支とが区分されており、かつ、当該親族の当該従事している状態が、生計を主宰している者に従属して従事していると認められない場合 当該事業のうち当該親族の収支に係る部分の事業主は、当該親族
(3) (1)又は(2)に該当する場合のほか、生計を主宰している者が遠隔地において勤務し、その者の親族が国もとにおいて事業に従事している場合のように、生計を主宰している者と事業に従事している者とが日常の起居を共にしていない場合 当該親族が従事している事業の事業主は、当該親族
まとめ
- 未分割時の事業所得は事業主に帰属する。
- 事業主の判定は所得税法基本通達により経営をしているのがだれであるかにより判定。
- 親族間においての判定は経営方針についての支配力により推定がされる。