中小企業の経営者は日々忙しく、自社の試算表や決算書をじっくり確認されている方という方は意外に多くありません。
そのため、知らぬ間に役員貸付金という科目が決算書に登場し、この科目の金額がどんどん大きくなっている会社を目にします。
この「役員貸付金」。
実は非常に厄介で危険な科目であることをあなたは知っていますか?
多額の税負担が発生したり、金融機関から融資を受けられなくなる可能性があることを意外に皆さん知りません。
そこで今回はこの「役員貸付金」について少し掘り下げてご紹介したいと思います。
役員貸付金の発生原因
まずは「役員貸付金」とは何か?なぜ発生してしまうのか?ということから確認します。
役員貸付金は文字通り、法人が役員へ貸したお金です。
しかし、実務上は本当に貸し借りをしているケースはそれほど多くはなく、経営者自身に全く身に覚えがない場合すら存在します。
以下は実務でよく遭遇するケースです。
- 社長のプライベートな費用を会社が立て替えている
本来社長個人で支払うべき子供の学費や習い事などを会社が立替払いしていような場合に役員貸付金として処理
- リベート
マージンの支払いなど。支払先を詮索されては困るようなお金の支払いの処理に困り、役員貸付金として処理
- 内容が不明な経費の処理(ずさんな経理処理)
経理担当や税理士との意思疎通を日頃からとっていない場合に、内容不明な支出の処理を社長本人に確認出来ないため、役員貸付金として処理
- 関係会社への迂回融資
関係会社では融資を受けられない場合に、個人を迂回して関係会社にお金を融通する際に、決算書に関係会社の名前を載せないようにするために役員個人への貸付と処理
上記のような場合には、役員貸付金以外にも現金、仮払金、立替金などの残高が多く、内容がよく分からないケースも同様のことが言えます。
融資に対する危険性
金融機関があなたの会社に追加融資を検討する際、決算書は必ず提出する最重要書類です。
融資の可否はこの「決算書」によりほぼ決定するといっても過言ではありません。
そして、この決算書の中身で最も金融機関が嫌う勘定科目ワースト1は「役員貸付金」です。
なぜならば、金融機関が融資をする際に最も重視していることが資金使途(貸したお金が何に使われるか?)だからです。
資金使途とは貸したお金が何に使われたか?ということですが事業資金又は設備資金のいずれかに分類されます。
役員貸付金が決算書に多額にある場合、金融機関は、自分たちが貸したお金を本来の約束とは異なり役員の個人的な支払に充てられてしまったと考えるわけです。
更に金融機関と同じように信用保証協会も問題視します。
融資を受ける際、多くの中小企業は、信用保証協会付融資です。
信用保証協会付融資にすることにより金融機関はいざという時に保証協会が責任共有制度により一定額の保証をしてくれるので安心して融資に踏み切れるのです。
しかし、資金使途違反は信用保証協会が金融機関に対して保証をしてくれなくなる保証免責事項の一つとされており、いざという時に保証会社に保証を解除されてしまう危険があるわけです。
『あなたが子供から学校の教科書を買うからお小遣いがほしいといわれ、小遣いをあげたにも関わらず、実は子供がそのお金でゲームを買っていたら怒りませんか?二度と小遣いなんてやるものか!!』と思うはずです。
金融機関から融資を受けているにも関わらず多額の「役員貸付金」がある会社は金融機関へ同じようなことをしてしまっていると考えるべきです。
税務上の危険
『役員貸付金』については融資の面だけでも相当厄介な問題を含んでいることは上記でお伝えしましたが、税務的にも危険です。
会社から役員へ貸している場合には一定の利息を計上する必要があります。
貸付金の額が大きいと年間利息も当然多くなります。その利息については会社における利益を構成するため、法人税等の税負担が生じます。
しかし、最も恐ろしいのが、「役員賞与」として認定されてしまうことです。
役員貸付金が一時的なものであり、解消していくのであれば良いのですが、年々増加している場合には、税務調査にて「役員賞与」と認定される恐れがあります。
「役員賞与」として認定されてしまった場合、役員賞与は税金計算上の経費にはなりません。
そのため、会社は法人税、法人住民税、法人事業税、源泉所得税の徴収漏れ等の指摘を受けるだけでは済まず、個人では所得税、住民税の税負担も発生します。
このように「役員貸付金」は税務的にも非常に危険があることをしっかり認識しておくべき科目なのです。
役員貸付金の解消方法
長年積み重ねてきてしまった役員貸付金の解消は簡単ではありませんが、実務的には以下のような方法で減らしていくことが出来ます。
- 役員報酬を増額して返済
無理のない範囲内で月々の役員報酬から強制的に天引きし、会社へ返済していきます。仮に、手取りが減ってしまい個人の資金繰りが厳しくなる場合には、役員報酬の増額を検討することになります。
しかし役員報酬の増加は所得税、住民税、社会保険の負担が増加しますので、大幅な役員報酬の増加は難しく、長期の返済計画を立てていくことが現実です。
- 個人資産を会社へ売却し返済
多額の役員貸付金を一気に解消する方法としては個人資産を法人へ売却することも一案です。役員が所有している車や不動産を法人へ譲渡し、譲渡した金額と役員貸付金の相殺を行います。
- 自己株式による返済
役員が保有している株式を会社に買ってもらう方法です。ただし、この方法は含み益があるような場合に有効です。ただし、個人はみなし配当により課税が生じます。
- 有償減資による返済
有償減資により資本金等の一部を返金することにより、その返金額を役員貸付金の返済原資として解消します。
- 親族などから個人が資金調達をして返済
親族から役員個人がお金を一時的に借り、そのお金を役員貸付金の返済へ充当する方法もあります。親族に資金的なゆとりがある場合には有効な方法の一つです。
上記以外にも保険を利用した解消スキームなるものもあり、一見魔法のような方法に見えますが、結局は保険料負担と金融機関の金利が余分にかかるものだったりするため個人的には・・・と思っています。
まとめ
上記で確認してきたとおり「役員貸付金」は百害あって一利なしの科目です。
多くの場合、ずさんな経理体制が問題だったり、個人と法人のお金をしっかり区別をしていないことが原因です。
まずは個人と法人のお金の区別をしたうえで試算表や決算書を経理担当者や税理士任せにせず、経営者自らがしっかりチェックを行うことが重要です。
もし決算書上に「役員貸付金」がある場合、解消するには痛みを伴うことがほとんどですが意識して返済を少しでも進めていくことが重要です。