税務調査の立会い業務を行っていると、友人や知人と共同で事業を行っている個人の方から相談を受けることが結構あります。
共同経営を行っているなかで相談が多いのが、1人でこなせないので数人でタッグを組んで、そのうちの一人の口座に取引先から入金がされるようなケースです。
このような場合には真っ当に申告をしていても調査対象に選ばれ、場合によっては多額の税負担が発生することもあるため注意が必要です。
以下では、相談事例について対話形式でご紹介したいと思います。
※※本事例はご本人の承諾のうえ、匿名かつ概略のみとし、事実関係を一部変更したうえ紹介しています。
相談者:Mさん 業種:建設業(一人親方)
申告状況:売上700万程度 白色申告だが申告自体は比較的真面目に申告を行っている。
税務署から税務調査を行いたいと連絡が来ました。
調査対象期間は3年間と言われています。
見せて頂いた確定申告書と収支内訳書ですが、税務調査が行われるような心当たりはありますか?
正直いって経費に少しプライベートなものが入っているかもしれません。
それ以外はしっかり申告していると思っているのですが・・・・。
なるほど、売上なんかはどうですか?
売上については自分の分はしっかり計上しているつもりです。
自分の分とはどういうことですか?
実は、仲の良い友人と2人で仕事を受けています。
取引先の都合上、どちらかの名義で業務を受けてほしいと言われ、私の名義で業務を受けて、振込手数料がもったいないので友人には入金された金額の半分を現金で渡しています。
なるほど・・・・。
通帳を見てみると売上入金があった日に売上の半額をおろしているのはそういった理由があったわけですね。
それで税務調査に選ばれたんでしょうね・・・。
え?
なんでそんなことで税務調査に選ばれるんですか?
おそらく、税務署は以前にMさんの取引先の税務調査を行った際にMさんの資料せんをもって帰っているのだと思います。
そして、その資料せんをKSK(国税総合管理)システムに入れ込み、照合をかけているのだと予想されます。
Mさんが出した申告書上の売上と資料せんとの情報に齟齬が生じたので税務調査に選ばれたのだと思いますよ。
なるほど、私の場合、1社からしか仕事を受けていないので、丁度半分の売上の申告になっていますからね・・・。
でも、それであれば訳を話せば終わりになりますか?
領収書(精算書)などがないため、そこは友人にしっかり協力してもらう必要がありますが、
このような場合で問題になるのが消費税の納税義務判定です。
Mさんが受けている業務を、Mさんが業務自体を受けて、友人に外注費を支払っていたとされてしまうと消費税の無申告を指摘されます。
給与認定されてしまうと更に納税額は多額になります。
Mさんの認識通り、売上はあくまで半分であることを認めてもらえれば消費税の納税義務はないことになります。
ここをしっかり説明できるかどうかが重要ですね。
なるほど、消費税を支払うこととなると大きな金額となりそうで心配です・・・・。
このような場合にはどのように取引先から仕事をもらっていたのか、それぞれの業務内容、経費の負担割合、売上金額の精算方法などを総合的が考慮されることになります。
友人への支払いは外注費や給与ではないことをしっかりと説明できるようにしておきましょう。
【共同経営を行っている場合の問題点】
共同経営を行っている場合、収入や経費について按分して確定申告を行っていることがあります。按分計算が正しければ所得金額については特に問題となることはないと考えられますが、消費税の納税義務判定や計算上、共同経営に該当するか否かが問題となります。
実務上、この共同経営に該当するか否かの判断は非常に難しく、課税庁側と見解の相違が生じるところでもあります。
過去に共同経営について争われている判例をいくつか確認してみると以下のような点がポイントとなっているものと思われます。
・経営方針の決定等について支配的影響力を誰がもっているのか
・利益分配合意の有無
・共同経営というための役割がそれぞれ不可欠
・法律上の名義、事業に係る出資状況、従業員等への指揮官等状況など
上記のポイントはいずれかに該当すれば共同経営に該当するというわけではなく、それらを総合的に勘案して社会通念に従って判断するとされています。