お客様から「お金がないのに、こんなに利益が出るのはなぜですか?」と聞かれたことがない税理士はおそらくいません。
「儲かったお金は一体どこに消えてしまったのか?」
このことを理解することは会社経営を行っていくうえで極めて重要なことです。
会計上の利益とお金との関係を実際にお客様と決算前の打ち合わせを行った際の打ち合わせ内容を会話形式でご紹介します。
相談者:A社(運送業と小売業の2本柱) A社長
A社の状況:創業15年。数年前に大きな赤字が出てしまった際に金融機関から融資を受けた。そこから持ち直し資金繰りが厳しい状況ではあるものの最近は着実に利益が出てきている。
今期利益(見込)300万円。減価償却100万円 借入返済 450万円 トラックの分割払い150万円
※本事例は守秘義務の関係上、実際の事案とは内容を一部変更してご紹介しています。
H社長。
コロナ禍もあけ、今期は順調ですね。
そうですね。
一時期の悪い状態からは抜け出せてきていると思います。
ただ、お金としては一向に楽になっていません。消費税を支払ってしまうと1年前に比べてむしろ現預金は減ってしまいます。。
この試算表上の利益は一体どこに消えているんでしょうか?
会計上の利益がH社長の感覚と大幅にズレている原因を理解するうえで前提として理解して頂きたいことは収入から経費を引くと利益となりますが
①お金が入ってくる=収入
②お金が出ていく=経費
ではないということです。
このことをA社に置き換えてみるとズレの原因は大きく3つだと思います。
①入出金のズレ(棚卸や請求から振込までの回収)
②融資の返済
③トラックの購入費用と減価償却
①は売上の計上時期と実際にお金が入ってくるときのズレですね。
②についても融資は借りたときは収入にならない代わりに返したときも経費にならないということですよね?
そのとおりです。
①は資金の回収サイトが長ければその分お金が苦しくなります。A社の場合には、回収サイトもそれほど遅くないですから問題は棚卸にあると思います。
棚卸はお金が商品に代わっていることを意味するので適正金額となっていない場合には資金繰りを圧迫するため注意が必要です。
②の融資については数年前の大赤字の際にうけた融資の返済が進んでいますので、儲けたお金の大部分はここに消えていると考えてよいと思います。
また③の減価償却費についても理解しておく必要があります。
トラックなどの高額な固定資産は購入時に全額経費として計上するのではなく、耐用年数に応じて数年かけて減価償却費として経費にしていきます。
つまり、減価償却費はお金の支払いを伴わない経費です。
・・・・。
減価償却なんて聞くと一気に難しい感じになってきますね。
ようは購入時にはお金が出て行っているけど、利用が数年にわたるから分割で経費にしているようなイメージですかね?
そうですね。
イメージとしてはそれでよいかと思います。
A社のお金が利益が出ているのに減っている理由は以下の通りです。
会社の利益 300万
減価償却 100万(経費だけどお金が減らない +)
借入返済 450万(経費じゃないどけお金が減る ▲)
車分割払い 150万(経費じゃないけどお金が減る ▲)
差引 ▲200万
なるほど数字でみてみると納得しました。
今期はなんとか利益がでていますが、来期も同じような利益だと今の手もと資金では厳しいかもしれないといった感じですね。
そうですね。
借入の返済期間が短いので月々の返済が厳しいかと思います。
数年前大きく赤字が出てから追加融資については厳しい対応がとられてきましたが、
前期に少し利益が出て、今期はしっかり利益が出る決算書となりそうですから、借り換え又は追加融資を検討してみても良いかと思います。
特にA社の場合、稼働日数が少ない1・2月は売上が落ち込み資金的に苦しくなることが予想されるので早めに対応を検討しておくほうがよいかも知れませんね。
実は金融機関の担当者からも借り換えについて打診されていました。
でも、これ以上借入が増えるのも嫌だったので保留にしていました。
既存融資の返済が厳しいため、期間を延ばしたり、月々の返済額を少なくしてもらうなどを打診してみようかとも考えています。
返済期間の延長や返済額の圧縮は金融機関にとっては条件変更に該当し、追加融資を受けることが出来なくなってしまう可能性が生じるためやめておいたほうが良いと思います。
融資金額が大きいと一気に返済を進めていくことが難しいため、借り換えや追加融資を受けながら、少しづつ借入の金額を減らしていくと考えを切り替えていくことも重要かと思います。
なるほど。
来年は業績としては同じくらいかもう少し良くなるかなとは思っていますが、おっしゃるように資金繰りは厳しくなりそうなので既存融資の内容を見ながら、利子補給などがあるものは生かしつつ追加融資を受けるか、借り換えを行うかを早めに検討してみます。