民法改正に伴う配偶者居住権(令和2年4月施行)についての税務上の取り扱いが徐々に明らかにされてきました。
配偶者居住権が利用されるようなケースを考えてみる。
そもそも、配偶者居住権が制定される理由は、配偶者が相続により、住み慣れた家を追い出されないようにするためです。
ほとんどの相続では親が住んでいる土地建物を相続人である子供たちの名義にしたからといって親を追い出して処分しようなどと考えることはないため、世知がない世の中になったもんだなど、民法改正のセミナーなどでは話されています。
しかし、子供ではなく、その配偶者などであれば、起こってもおかしくはないと思います。
実際に、以下のような事案に遭遇したことがあります。
父に相続が発生し、父と母が住んでいる土地、建物を子が相続しました。その後、母より先に子が死亡してしまったのです。
子の相続人は、子の配偶者と孫となり、母が住んでいる土地・建物は子の配偶者と孫のものになりました。
まだ、孫も幼く、今後の生活費などの工面をする必要もあったことから、土地、建物を売却する必要が生じてしまったのです。
このような場合には、母のためにも配偶者居住権の設定を行うべきケースなのかもしれません。
配偶者居住権と建物や土地の所有権評価の関係
配偶者居住権の本来の趣旨は上記に述べたとおりです。
住み続ける権利のため、税務上はその権利には財産価値も認められることになりました。
評価の細かいことは国税庁のHPに記載されていますが、簡単にいうと建物・土地双方に利用する権利を認めて、利用が予測される年数に応じた評価がされる仕組みです。
逆に土地・建物の所有権の評価は上記の配偶者居住権部分を差し引いた評価となります。
相続税対策に使われる?
国税庁が7月5日・8日に相続税関係の改正通達を公表し、注目されていた配偶者居住権の取り扱いの1つが明らかになりました。
明らかになったのは配偶者居住権が消滅したときの取り扱いです。
「配偶者居住権は配偶者が死亡した際には消滅するため、二次相続の際は相続税の対象としない。」といったものです。
そのため、一次相続で、配偶者居住権を設定し、土地、建物の評価を下げておけば、配偶者居住権の評価相当分は相続税の課税を受けずに次世代に移せてしまいます。
相続実務の一部を担っている立場としては、このことを利用した節税スキームなどが横行し、本来の趣旨の利用を阻害しないか心配です。