税務調査が進んでくると、稀に質問応答記録書という書類に署名押印を求められることがあります。
この質問応答記録書は調査の山場で出てくる場合が多く、場合によっては税務調査の結果を大きく左右するものです。
そのため、税務調査を受ける方は、この質問応答記録書についてしっかり理解しておくことが重要です。
質問応答記録書とは?
質問応答記録書は平成25年に税務職員向けに手引きが配布され、税務調査で利用されています。
直接的な法的根拠もなく、どのような性質のものであるかはこの職員向けの手引きにより、理解を行う必要があります。手引きによれば、質問応答記録書は以下のように記載されています。
「質問応答記録書は、調査関係事務において必要がある場合に、質問検査等の一環として、調査担当者が納税義務者等に対し、質問し、それに対応し納税義務者等から回答を受けた事項のうち、課税要件の充足性を確認するうえで重要な事項と認められる事項について、その事実関係の正確性を期するため、その要旨を調査担当者と納税義務者等の質問応答形式等で作成する行政文書である。
事案によっては、この質問応答記録書は、課税処分のみならず、これに関わる不服申し立て等においても証拠資料として用いられる場合があることも踏まえ、第三者(審判官や裁判官)が読んでも分かるように、必要・十分な事項を簡潔明瞭に記載する必要がある。
また、質問応答記録書は、納税義務者等の理解と協力を得て行う調査の一環として作成するものであることから、納税義務者等に対し、署名押印を求めるに当たっては強要していると受け止められることがないよう留意する。」
つまり、税務調査の際に作成される質問応答記録書とは以下の特徴があるということです。
- 課税要件の充足性を図るために作成される。
- 質問応答形式等で作成する行政文書(公文書)
- 不服申し立て等を想定して課税庁側の証拠資料として作成されるもの
- 納税者は署名押印を行うこととなる。(強制ではない)
課税庁が質問応答記録書を作成する意図とは?
調査官が質問応答記録書の作成を必要と考えるケースとは?
前述したとおり、「質問応答記録書」は課税庁が納税者からおこされる不服申し立て等を念頭に、税務調査で収集した証拠資料のみだけでは課税要件を充足できない場合に、作成が検討されるものです。
そのため、「質問応答記録書」の存在は、課税庁サイドとして、課税要件があと一歩足りないと考えている際の重要な補完資料となっているものと推測されます。
このことは「手引き」のFAQからも容易に伺い知ることが出来ます。
参考(手引きFAQより)
「質問応答記録書等の作成の要否は、個々の事案における証拠の収集・保全の状況、非違の内容、調査過程における納税義務者等の説明や主張等を総合的に勘案して検討する必要がある。
このため、証拠書類等の客観的な証拠により課税要件の充足性が確認できる事案については、原則として、質問応答記録書等の作成は要しないことに留意する。」
課税要件の充足とは?
次に課税要件の充足とはどのようなことかを改めて考えてみます。
「手引き」の記載内容から課税庁が質問応答記録書の作成を特に重視すべき場合を確認することができます。
FAQでは一定の場合を除き、質問応答記録書ではなく調査報告書により回答内容を記録することでも差支えないことが記載されています。
逆にいえば、一定の場合には質問応答記録書を作成することにより課税要件に充足をしろといっているわけです。
この一定の場合とは例えば以下のようなケースです。
- 更正決定見込みである場合(修正申告の意思が明確ではない)
- 過去の税務調査で見解の相違・争訟等となった事実がある場合
- 納税義務者等の回答内容を主要な証拠として重加算税を賦課決定する場合 など
署名押印拒否とその効果を考える。
署名押印の拒否はできるのか?
質問応答記録書については、調査官が事実関係を質問し、納税者等がその確認を行い、署名押印することにより作成されます。
ここで気になるのが、署名押印を拒否することが出来るのか?ということです。
結論から言えば、調査官の権限は質問検査権ですので、署名押印までは強要できません。
手引きにおいても、署名押印は強要するような言い回しを控えるようとの記載があります。
そのため、署名押印については納税者が行う義務がないことを堂々と主張することが出来ます。
署名押印の拒否から得られる効果とは
納税者が署名押印をしない場合には質問応答記録書の完成を阻止できるのか?
署名押印は任意であるわけですから、署名押印は拒否し、質問応答記録書の作成を阻止したいと考えるのは至極当然のことかと思います。
しかし、手引きのFAQでは納税者から署名押印を拒否された場合も想定し、その対応策が記載されております。
そこには、調査官が、納税者の署名押印を拒否した理由等を記載のうえ、内容確認を納税者に行わせたうえで、納税者の代わりに署名押印することにより、質問応答記録書を作成(完成)することが出来る旨の記載があります。
結論としては、例え、署名押印を拒否しても質問応答記録書は作成(完成)されてしまいますので、署名押印拒否の効果は限定的なものとなってしまうように思われます。
質問応答記録書への対応
上記の通り、質問応答記録書は納税者にとり、不利益を被る可能性が高いものです。
例えば、直接的な資料のみでは重加算税の賦課要件である仮装隠ぺい行為の立証まで出来ない事案でも質問応答記録書の作成により、重加算税の賦課要件を充足してしまうようなケースもあろうかと思います。このような場合、可能であれば質問記録書の作成は回避したいところです。
しかし、税務調査において複数の争点があるような場合には、交渉材料として質問応答記録書の作成に協力することにより、負担金額の合計額を減額することも可能な場合もあります。
いずれにせよ、安易な署名押印には応じず、総合的な判断を検討する必要があろうかと思います。