社会保険の負担も年々増加し、消費税の税率上昇やインボイス導入に対応するため、従業員を外注先へ変更する会社があります。
しかし、安易にこの方法を選択した場合、源泉徴収義務違反や消費税が過少申告となってしまうとため注意が必要です。
以下では、どのような要件を満たせば外注先として税務署が認めてくれるのかお客様と検討した際の会話をご紹介します。
※守秘義務の関係上、事実関係を一部変更したうえ、ご紹介します。
相談者:M社長
M社は創業8年目の会社。売上6000万円。事業内容は機械器具の取り付けをメイン業務として、社長の他、従業員7人と事業を行っている。本業で利用する主材料は取引先から提供を受けている。現場までの交通費や現場での消耗品はM社が負担している。
先日、経営者仲間のA社長と話していたら社会保険や消費税の負担軽減のため、
従業員を外注先とすると言っていました。
A社長は業務委託契約書だけ交わすだけで何も変わらないといっていました。
それが本当なら我が社も一部でも検討しようかと思っているのですが、どうでしょうか?
確かに理論上は可能ですし、そのようなことをやっている会社も多くありますよね。
ただ、その社長さんの考え方は非常に危険だと個人的には思います。
従業員を外注先へ変更することは契約書も重要ですが、最も重要なのは実態です。
従業員だった人が外注先となった場合には、特に実態がどのように変更されているのか注意が必要だと思います。
この方法は消費税を逃れようと使い古されてきた方法なので税務署も厳しくチェックしています。
決算書上も給与が減って外注費が増加するので一目瞭然ですし。
え?
契約書ではなく実態が重要なんですか?
従業員と外注との明確な違いなんて考えたことがあまりなかったけど、どのような違いがあるのでしょうか?
税務上、違いは明確に記載があるわけではないのですが、判例では根拠となるものを示しています。
根拠とされている基準は「消費税法基本通達1-1-1」に掲げられている以下の4項目です。
①非代替性 本人に代わって他の者が役務提供することを認めているか?
②指揮監督性 事業者の指揮監督をうけるか?
③危険負担 未完成品が不可抗力で滅失した場合に役務提供に対する報酬を支払われるか?
④材料等の支給 役務提供に係る材料又は用具等の供与を受けていないか?
なんだか難しそうですね。
これら4つの項目すべてをクリアしないといけないのでしょうか?
非常に良い質問ですね。
4つすべてを満たすことで外注費となるというわけではなく、4つを総合勘案するとされています。
税務大学校のホームページにも記載されている東京地裁R3年2月26日判決は4つの判断基準について一つずつ丁寧に当てはめを行っているためとても参考になりますのでご紹介します。
以下は裁判所の判断について4つの要件を説明したものです。
非代替性
請負人は、注文者の承諾を得なくても仕事を下請人に請け負わせることができるが、労働者は、使用者の承諾を得なければ、自己に代わって第三者を労働に従事させることができない(民法625条2項)。
したがって、本人に代わって他の者が役務を提供することが認められている場合や、本人が自らの判断によって補助者を使うことが認められている場合等役務の提供の代替性が認められている場合には、「給与等」該当性を否定する要素の一つとなる。
他方、代替性が認められていない場合には、「給与等」該当性を補強する要素の一つとなる。
指揮監督性
具体的な仕事の依頼、業務に従事すべき旨の指示等に対して諾否の自由があることは、「給与等」該当性を否定する重要な要素となる。他方、このような諾否の自由がないことは、一応、「給与等」該当性を肯定する要素の一つとなる。ただし、断ると次から仕事が来なくなることなどの事情により事実上仕事の依頼に対する諾否の自由がない場合や、例えば電気工事が終わらないと壁の工事ができないなど作業が他の職種との有機的連続性をもって行われるため、業務従事の指示を拒否することが業務の性質上そもそもできない場合には、諾否の自由の制約は直ちに「給与等」該当性を肯定する要素とはならず、契約内容や諾否の自由が制限される程度等を勘案する必要がある。
作業の指示がされている場合であっても、当該指示が通常注文者が行う程度の指示等にとどまる場合には、「給与等」該当性を肯定する要素とはならない。他方、作業の具体的内容・方法等が指示されており、業務の遂行が「使用者」の具体的な指揮命令を受けて行われていると認められる場合には、「給与等」該当性を肯定する重要な要素となる。
「使用者」の命令、依頼等により通常予定されている業務以外の業務に従事することがある場合には、「給与等」該当性を補強する重要な要素となる。
勤務場所が建築現場等に指定されていることは、建築業においては業務の性格上当然であるので、このことは直ちに「給与等」該当性を肯定する要素とはならない。
勤務時間が指定され、管理されていることは、一般的には「給与等」該当性を肯定する要素となる。ただし、他職種との工程の調整の必要がある場合や、近隣に対する騒音等の配慮の必要がある場合には、勤務時間の指定がされたというだけでは「給与等」該当性を肯定する要素とはならない。一方、役務の提供の量及び配分を自ら決定でき、契約に定められた量の役務を提供すれば、契約において予定された工期の終了前でも契約が履行されたこととなり、他の仕事に従事できる場合には、「給与等」該当性を弱める要素となる。
危険負担
請負人は、請負契約が債務不履行により解除される場合においても、工事内容が可分であり、しかも当事者が既施工部分の給付に関し利益を有するときは、特段の事情のない限り、既施工部分については契約を解除することができず、既施工部分につき出来高報酬を請求できるが〔最高裁昭和52年(オ)第630号同56年2月17日第三小法廷判決・裁判集民事132号129頁。本件支出金支出後に改正された規定であるが、民法634条参照〕、当事者双方の責めに帰すことができない事由により引渡し前の完成品が滅失した場合には、報酬を請求することができない(民法536条1項)。
これに対し、雇用契約における労働者は、労務の提供に係る完成品が滅失しても、報酬請求権を失わない。
したがって、報酬が、完成した仕事の内容ではなく、時間給、日給、月給等時間を単位として計算される場合には、「給与等」該当性を補強する重要な要素となる。
材料等の支給
据置式の工具など高価な器具を所有しており、これを使用している場合には、事業者としての性格が強く、「給与等」該当性を弱める要素となる。他方、電動の手持ち工具程度の器具を所有していることや、釘材等の軽微な材料費を負担していることは、「給与等」該当性を弱める要素とはならない。
なるほど・・・・。
4つの要件を総合勘案して検討するとはいえ、従業員の身分の者を関係を変えずに外注として業務を行ってもらうと4つの要件のうち該当しないもののほうが多くなってしまいますね。
A社長がこの4つをしっかり把握していると思えないので伝えてみます。
また、弊社でも4つの要件を満たすような移行が可能かどうかも合わせて考えてみます。
そうですね。
もし、外注先を給与認定された場合には、源泉所得税の徴収義務違反、消費税が過少申告となり、本税以外にも加算税や延滞税が課され、多額の税負担が発生することになってしまいます。
業務委託契約書も4つの条件と比べてみたうえで、実態も給与と認定されないようにしておくことが重要です。